「科学的」「感情的」「メディア」の3グループに特性が分かれる。
科学者同士が結束し初期段階からの正しい情報発信が必要。
我々の研究班では、2011年3月以降にTwitterに日本語で投稿されたなかから、「放射」「セシウム」「シーベルト」といった放射線に関係する語句をひとつでも含むツイート(投稿された文章)のデータを取得しました。
期間や取得語句リストについて何種類かにわけてNTT Data社を通じてデータを購入してきたのですが、原発事故後半年間のツイートについては、100%取得した2400万件のデータセットがあります。
このデータを分析すると、Twitterの言論空間における特徴が見えてきます。たとえば、ツイートのうちの半数がリツイート(情報の拡散を目的として別の人のツイートを再投稿すること)で、多くのツイートがほとんどリツイートされない一方で、数千回以上リツイートされるツイートもあります。
こうした頻度の高いユーザーはインフルエンサーと呼ばれています。
TwitterなどのSNSにおいては少数のインフルエンサーが寡占的に影響力を持つことが知られていて、今回のデータセットでも上位2%のユーザーによるツイートが全体のリツイートの80%を獲得し、トップ100だけでも31%を占めていました。
ツイートの全文章に対してテキスト解析を行い、5つのクラスターに分類しました。
それぞれのクラスターに含まれるトップ100のアカウントについてその特性を調べたところ、科学者を含み科学的事実に基づいた投稿の多いグループA、放射線に関して素人が多く感情的な内容の投稿が特徴的なグループB、メディア関係のグループCの3グループにまとめられることがわかりました。
次に、リツイート関係を示すアカウント間のネットワーク構造を調べたところ、グループBとグループA&Cの間に大きな分断があることがはっきりと示されました。
グループBの内部で互いに頻繁にリツイートが繰り返されて結束が密なのに対して、グループAとCをあわせたコミュニティーの内部での結束はゆるく、さらに、グループBとの間ではやりとりが少なく、コミュニティーが分離していました。
TwitterをはじめとするSNSにおいては、考えや価値観の近い者同士からなるコミュニティーの内部で情報が閉じてしまい、自分の観点に合わない情報に接する機会が著しく減るというフィルターバブル、また、そのなかで自分と似た意見が反響するかのように返ってくるエコーチェンバーの効果により自分の意見に確信を抱いてしまうという情報環境の特性、あるいは弊害が知られています。
放射線の情報に関してもまさにそれが当てはまっていました。
事故直後にはグループA&Cの影響力が大きかったものの、1ヶ月もしないうちにグループBが台頭して逆転し、放射線を危険視する風潮へと繋がっていく様子が見て取れます。
当時のテレビ報道から捉えられる世論の動きよりもTwitterでの言論のほうが先んじているようです。
その後は、グループAの科学者による発信は萎んでしまい、科学者インフルエンサーの孤軍奮闘むなしく多勢に無勢でした。
情報の流通速度が速いSNSにおいては、支持者が連携して結束し、いかに初期に正しい情報をできるだけ多くの人々に行き渡らせられるかが勝負を分けると言えます。
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