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#3.11#SNS#デマ#ファクトチェック#原発事故#放射線#被ばく#被曝#被爆#風評

3.11以降発信されたツイートのファクトチェック No.4

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3.11直後にTwitter上で多くリツイートされたツイートについて、そのファクトチェックを行いました。
今回は「日本を巻き込んだ第三の原子力災害」と呼ばれる「ビキニ事件」に関するツイートを確認しました。
事件の半年後に死亡した乗組員の一人について、その死因が放射線によるものと伝えられましたが、のちの研究で急性肝炎による死であることが分かりました。
科学者は科学的事実が明らかになった時点で、結果を公表し明らかにしていく努力こそ必要なのではないでしょうか。
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放射線の健康影響について知りたい人

無線長・久保山氏の直接の死因が輸血肝炎であることは、多くの方は知らない。
科学的事実が明らかになった時点で、科学者はどうすべきか考える必要がある。

2011911日に投稿されたツイート

「ビキニ第五福竜丸事件での久保山さんの死因は、放射線ではありません。 売血輸血による急性肝炎です。他の船員たちも多く感染しています。私が調査した現地の島民たちに急性肝炎はいません。これが証拠です。 日本の原水禁運動の原点に嘘があったのです。」

〈解説〉

いわゆる「ビキニ事件」とは、195431日、アメリカ国防総省とアメリカ原子力委員会が合同でビキニ環礁で行った水爆実験に、日本のマグロ漁船「第五福竜丸」が巻き込まれ、乗組員23名が被爆した事件です。この事件では、事件から半年後には無線長だった久保山愛吉さんが亡くなり、被曝による影響として広く伝えられていました。

3.11以降、放射線の影響について調べる中で、この事件について書かれた2つの本を読みました第五福竜丸船員の方々は、脱毛する位の被ばくを経験したが、半年後に亡くなられた久保山氏の直接の死因は輸血肝炎と判断できました。また多くの方が放射線の影響で癌になり死亡と聞いていたが、改めて調べると輸血による肝癌であったことを確認し、私の中で放射線の生体影響の線量基準値が変わりました。

1、武谷三男の『死の灰』(岩波新書,1954年8月刊)

主治医であった三好和夫医師が、広島・長崎被ばく者の被ばく後の経過では認められなかった、白血球数が一旦回復した後の再低下と肝機能の悪化の症状にとまどいつつ、「広島・長崎の時は治療法がなかったが、今は抗生物質もあるし輸血もできる」と語っていた。私はこの本の中に掲載されていた、広島の被ばく者と第五福竜丸の治療経過による白血球数推移の図、即ち、被ばく1ヶ月後に白血球減少が認められ、その後回復したものの、2ヶ月を超えたところでまた白血球数の低下が認められ、黄疸も認められたと書かれた図を見て、輸血肝炎を確信した。主治医はなかなか回復しない第五福竜丸の患者の病状に、放射線病による肝臓障害だと信じていたようだが、これは現在の知識に照らしてみれば、輸血後肝炎(輸血による肝炎ウイルス感染が原因となった肝炎、この頃はB型、C型肝炎ウイルスも同定されていなかった)そのものであったと判断される。

 

2,  高田純の『核爆発災害―そのとき何が起こるのか』(中公新書 2007年)

第五福竜丸の被ばく者は、2004年までに23名中12名死亡、肝癌6名、肝硬変2名、肝線維症1名、大腸癌、心不全、交通事故各1名と書かれていた。
3.11以降Twitter上でも第五福竜丸の被ばくの話は、議論されていた。この時の被ばく者の死因が売血輸血による血清肝炎であることが2011年9月に高田氏によりTwitter上で明らかにされ、かなりの数のリツイートがなされていた。その後も年に1-2度、この事実のtweetがだされ、拡散している。この事実に多くの人が驚いた様子がうかがえるが、それはウソだ!、デマを流すな!といったtweetはほとんど見当たらないので、多くの人は驚きをもって受け止めたのではないかと推察している。私自身、長年放射線の影響と思い込んでいた事実が、その背景を知った時はショックだったし、Twitter上でこの事実を知った人もまた同様であったかもしれない。

第五福竜丸のかたは放射能症で体力が弱っていたから感染したのではという人もあるが、輸血回数は数十回に及んでいるので、これでは健康な方でも肝炎になる。その後、被爆していなかったら肝炎にもならなかったと、賠償がらみで肝炎については皆が口をつぐんでしまった。医師のほうも、治療の問題点を公にすることなく、今に至っている。その時点ではよかれと思ってやった治療が裏目にでたということもあろう。不信の連鎖を断ち切るためにも、間違いに気づいた点で、結果を公表し明らかにしていく努力こそ必要ではないだろうか。

3、学会としてこの問題をとりあげた日本放射線影響学会

2003年に日本放射線影響学会第46回大会で、第五福竜丸被曝事故に関連するシンポジウムが開催された。https://www.jrrs.org/about/activity/20160326-1.html

また、2007年、日本放射線影響学会第50回大会でも、放射線医学総合研究所との共催で、市民講座「第五福竜丸を振り返って」が開催された。https://www.qst.go.jp/uploaded/attachment/26921.pdf
但し報告書の記述は、事実関係に終始している。

 

背景

駐日ライシャワー大使が輸血で血清肝炎になった事を契機に、国内献血体制が整ったのは1964年のことであり、B型肝炎ウイルスは1970年、C型肝炎ウイルスが発見されたのは1988年のことである。従って1954年頃の輸血血液は、高頻度で肝炎ウイルスに汚染されていた可能性がある。おまけに輸血も1回で無く数十回にも及ぶなら、感染しない方が不思議である。実際、1954年のビキニ環礁での水爆実験は、アメリカ軍の想定以上に強力であったらしい。第五福竜丸が被ばくした同じ時、ビキニ環礁の住民達も被ばくし、2850時間後に彼らは米軍により救出された。救出後取り立てての治療は行われず、放射能灰を浴びた全身を朝晩海水につかって石けんで洗うよう指示されたそうだ『放射能難民から生活圏再生へ』 中原聖乃著 (法律文化社)。この時ロンゲラップ本島にいた人の被ばく量は2.2シーベルト相当と報告されており、臨床症状と合わせても妥当な線と推察される。その後、彼らの中から白血病1名、甲状腺がん10名が認められている。また、被ばく後4年間は高頻度で流産・死産が認められたと報告されている。しかしながら、島民からの肝炎、肝癌はわずかでありこれも麻薬との関連が強いとのことである。その後2014年の福島の研究会で、マーシャル諸島で調査した研究者からお聞きした肝癌の発生率は、280名中肝癌は6名程度であった。

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この記事を書いた人

宇野賀津子

宇野賀津子(京大理学博士)
公益財団法人 ルイ・パストゥール医学研究センター
インターフェロン・生体防御研究室  室長

専門:(公財)ルイ・パストゥール医学研究センター就職以来ヒトの免疫機能と疾患との関連の研究を一貫して進めている。対象は、癌患者のみならず糖尿病、リウマチ、キャッスルマン病、MPO-ANCA腎炎、最近ではCOVID-19と幅広く、インターフェロン・サイトカインの視点から一貫して研究をすすめている。
更にエイズ教育や外国人医療体制の確立、女性研究者支援活動にも係わる。
2011年秋からは日本学術振興会や日赤の要請で、福島県各地で低線量放射線の生体影響克服と食の重要性について講演活動をおこなった。その後、「放射線の影響とクライシスコミュニケーション」に関する先導的開発委員会 第二分科会主査、日本赤十字社「原子力災害における赤十字活動のガイドライン」作成のための研究会委員、生活関連の放射線に関する疑問への助言作成委員会副委員長等を務める。2016年より、3.11以降のtwitterによる情報発信の解析を進め、更にクライシス時のSNSによる科学的情報発信体制の研究を進める。

著書 
「低線量放射線を超えて:福島・日本再生への提案」小学館新書
「放射線必須データ32」創元社 分担執筆
「理系の女の生き方ガイド」ブルーバックス
「サイトカインハンティング:先頭を駆け抜けた日本人研究者達」日本インターフェロン・サイトカイン学会 京大出版会 編著