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#3.11#原発事故#放射線#放射線防護

専門家が答える 暮らしの放射線Q&A③ 「1mSvと100mSvについて教えてください。」

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福島第一原子力発電所の事故以降、日本保健物理学会はWEBサイト「専門家が答える暮らしの放射線Q&A」を立ち上げ、子育て世代を中心とする一般生活者から寄せられた疑問に答えてきました。
ここではその問いと回答の一部を抜粋し紹介します。
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放射線から身を守る「放射線防護」について詳しく知りたい人
専門家によって異なる見解が生まれる背景を知りたい人

当時、安全性・危険性について専門家によって見解が異なったため、社会が混乱。
「国際放射線防護委員会」の考え方と勧告をまとめました。

「100 mSv以下は安全だ」と言う専門家や、「1 mSv以上は危険だ」と言う専門家がいて、異なる見解が乱立していることが大きな混乱を社会にもたらしているように思われます。
「100mSv」や「1mSv」は、ICRP勧告を基にした数値です。以下に「100mSv」や「1mSv」についてのICRP(国際放射線防護委員会)の考え方を整理しました。

 

1 mSv、100 mSv共に数値の出所はICRP(国際放射線防護委員会)の勧告です。これは、国際的な放射線防護のための取り決めであり、日本の法律は、1990年の勧告を取り入れています。
なお、2007年勧告が最新版として公表されていますが、現在、放射線審議会基本部会で法令への取り入れについて検討が行われています。

 

ICRP勧告では、「一般公衆が1年間に計画的に受ける放射線の線量は、自然から受ける放射線の影響を除いて、1 mSvとする」とされています。
これは様々な研究の結果や世界中で人々が通常生活していて自然に受ける放射線の線量などを総合して、ICRPが公表したものです。
一方「100 mSv以上の線量を受けた場合、将来がんになる確率が明確に高くなる」としています。
したがって、この値(100 mSv)を超える被ばくが想定される場合は基本的に防護対策を考える必要があるレベルとしています。
つまり、100 mSvは線量が体に悪影響を及ぼすしきい値(これ以上受けると確実に影響が現れる線量)ではなく、放射線防護対策を決めるための参考値です。

 

「100mSv以下は健康に影響がない」という説は、放射線を受けた集団と受けていない集団を比較する疫学調査を元にしたものと考えられます。
疫学調査では、放射線が原因で将来がんになるリスクは原爆での被ばくのようにごく短期間に200mSv以上受けた際に、影響が統計的に確認されると報告されています。
しかし、これは200mSv以下ではがんになるリスクがないということを約束するものではありません。
人間は生活習慣や遺伝等、いくつもがんになるリスクを持っています。
200mSv以下の場合は確率が小さいので、その他の確率に埋もれてしまってよくわからない、というのが本当です。

 

一方、「1mSv以上は危ない」というのは、上述の200mSv以下の低線量では影響がよくわからない、リスクは小さいとはいえ0ではないということを根拠として述べられていると考えられます。
端的に申しますと、「明確でないから安全」「明確でないから危険」とする立ち位置の違いによって、意見が分かれていると考えられます。

 

ICRPでは、100mSv以下の低線量の不確実さを踏まえ、「被ばくはできるだけ低減するように努力しなければならない」としています。
”低減”の度合いの考え方は、2007年勧告に詳しいですが、その人が生活する上でのメリットとデメリットを鑑みて決めることになります。
危険に見合う便益があることが基本です。

 

たとえば、レントゲン撮影では、被ばくリスクを受け入れるというデメリットの代わりに、体の悪いところが分かるという対価(メリット)を得られるので、その被ばくは許容できる、ということになります。

ICRPは東電福島第一原発事故のように放射性物質が一般環境に蓄積し、これによる被ばくが明確な状況においては、年間の線量を1mSvとした場合、多数の人に移住などの重大なデメリットが生じるので、20mSv以内で調整することを勧告しています。

つまり、1mSvの被ばくの状況では、1mSvの線量を受けるデメリットよりも、移住等によるデメリットの方が明らかに大きいので、移住しなくていいようにある程度線量の値を緩和する必要が生じます。

ICRPの勧告は、その調整の上限値を20mSvまでで行いなさい、という意味です。

 

今回は事故ですので、この制限を迫られる住民にはデメリットしかありません。

ですから、この調整は国がそういったデメリットに対する保障も含めて責任を持って行うべきであるのですが、現在それがなされているとは言えない状況であるために、このような情報の氾濫を招いていると考えられます。

 

参考:放射性物質の分布状況等調査による航空機モニタリング、H23年度 – H25年度   文部科学省, 米国エネルギー省, 原子力規制庁https://emdb.jaea.go.jp/emdb_old/portals/b1020201/

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この記事を書いた人

河野恭彦

茨城県生まれ。一般社団法人日本保健物理学会正会員として、東京電力福島第一原子力発電所事故後に暮らしの放射線Q&Aウェブサイトを立ち上げ、一般の方々からの放射線に関する健康影響に関する質問に答える活動を約2年間行ってきた。2016 年にIAEA 放射能測定研究所(モナコ公国)へ留学。専門は環境放射能、放射線防護。IRPA Young Generation Network Leadership CommitteeのChairを2023年10月より務める。