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#3.11#SNS#放射線#社会

放射線問題に対するSNS上での空気感

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「自粛ムード」や「祝賀ムード」といった、漠然とした社会の空気感。
これを数値で捉えてみようという試みが行われています。
本記事では、その具体的な測定方法について説明しています。
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「自粛ムード」などの社会の空気感をデータで捉えてみたい人
SNSにはどのような情報が集まっているのか気になる人
SNSで発信された情報を研究してみたい人

社会の空気感は目に見えず、捉えどころのないもの。
しかしSNSなどへ投稿された言葉を注意深く観察することで、これまでになかった見方ができる。

2020年からの新型コロナウィルスの影響下では、予定されていた行事が次々と中止になっただけではなく、自主的に会食や飲み会をやめた人も多いのではないでしょうか。
当時の日本を覆ったそのような空気感は「自粛ムード」と言われていました。
日本だけではなく、例えばイギリスでは2023年5月のチャールズ国王の戴冠式でイギリス全体が「祝賀ムード」に包まれました。
このような社会の空気感は、肌感覚では分かっているものの、簡単に数値で表すことができる気温や湿度とは異なり、ちょっと捉えることは難しいように思われます。

 

しかし、最近になってそのような捉えどころのない社会の空気感を、なんとか測定しようという試みがあります [1-3]。
どうやって空気感を測定するのかというと、インターネットに残っている多くの人の声を使うのです。
より具体的には、ブログやSNSに書き込まれた、たくさんの言葉を拾い上げて行くのです。
例えば、雨が降る月曜の朝は、これから学校や仕事で「ダルい」と思わずつぶやく人も多いのではないでしょうか。
このような何気ない言葉を拾って集めることで、空気感を測定するのです。

 

もちろん、このようなインターネットの書き込みだけで、社会全体の空気感を言い表すことは不可能です。
そもそも、インターネットに接続していない高齢者や子供もいますし、何かを思っても、わざわざインターネットに書き込みしない人の方が多いでしょう。
一方で、日本でも多くの利用者がいるSNSから発せられる言葉のシグナルを注意深く聞くことで、断片的にでも得体の知れない空気感を読み解くことができれば、有意義だと思いませんか。

 

私たちは日本のSNSの中でも、利用者が4500万人いると言われているTwitter(ツイッター)と呼ばれるインターネットサービスに書き込まれた言葉を使って、放射線問題に対する空気感を測定しました。
Twitterは、利用登録した人がスマートホンやパソコンから自由に言葉を書き込むことができるサービスで、その手軽さから、アメリカを中心に世界中に利用者が数億人いると言われています。

 

私たちは、まず2011年から2017年の間にTwitterに投稿された、放射線問題に関連する書き込みを集めました。
そしてそれらの書き込みに頻繁に現れる、特徴的な言葉を数え上げることで、放射線問題に関する空気感を測定することにしました。

 

その結果、2011年の東日本大震災直後には高かった、ゴタゴタした感じを表す「混乱」の空気感や、不安で気が休まらない感じを表す「緊張」の空気感は、2年後の2013年頃には、ほぼ落ち着いていることが観測できました。

一方で、グッタリした感じを表す「疲れ」の空気感はそれよりさらに1年間長引いていたことが明らかになりました。
より詳細に読み解いていくと、この「疲れ」の空気感は、放射線問題に対して、ウンザリした人が多く、精神的な疲れが理由として挙げられました。
これは、新型コロナウィルス影響下の各種制限に起因する「自粛疲れ」とも共通した点があると考えられます。

 

このように、社会の空気感は目に見えず、捉えどころのないものです。

しかし多く人がインターネット上に接続している現在、SNSなどへの何気ない書き込みに残る言葉を注意深く観察することで、これまでになかった見方ができるようになっています。

 

 

参考文献

[1] Dodds, P. S., Harris, K. D., Kloumann, I. M., Bliss, C. A., & Danforth, C. M. (2011). Temporal patterns of happiness and information in a global social network: Hedonometrics and Twitter. PLoS ONE, 6(12), e26752. (英語のTwitterから社会の幸福感を計測した先駆的な研究)

[2] Sano, Y., Takayasu, H., Havlin, S., & Takayasu, M. (2019). Identifying long-term periodic cycles and memories of collective emotion in online social media. PLoS ONE, 14(3), e0213843. (日本語のブログから日本の空気感を計測した研究)

[3] 田村 光太郎 (2022). SNS情報から読み取る「日本の空気感指数」の紹介. 野村総合研究所 メディアフォーラム資料 [2022/04/08] https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2022/cc/mediaforum/forum331 (2023-02-01 参照/日本語の Twitterから日本の空気感を計測した研究)

 

【図】 放射線問題に関するツイートから抽出した6つの感情(空気感)に関する月次の推移。縦軸は2017年1月からの半年間の平均を1とした値(破線)を基準とした値に規格化している。

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この記事を書いた人

佐野幸恵

筑波大学 システム情報系 准教授
奈良女子大学大学院で物理を専攻後、消防システムのエンジニアとして株式会社富士通ゼネラルに就職。その後、退職して東京工業大学の博士課程へ入学し学位を取得。博士(理学)。日本大学理工学部助手等を経て現職。
専門はネットワーク科学や社会経済物理で、特にSNSに見られる人間の集団行動に興味がある。
2011年の東日本大震災時の情報混乱をきっかけに、SNSにおける情報拡散について、大規模なデータ分析やシミュレーションを通した研究を進めている。
「科学技術への顕著な貢献2020(ナイスステップな研究者)」に選定された。