SNS社会で科学者にできること

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#3.11#SNS#デマ#放射線#社会#風評被害

SNSでシミュレーションを行う意義

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SNS上の誤った情報や不確実な情報は社会の混乱を招く可能性があります。
非常時、これらの情報はどのようにして広がっていくのでしょうか。
SNSの書き込みを分類すると情報伝達の特徴が分かりました。
これから起こりうる非常時により多くの人々に正確な情報を届けるためにはどうすればよいか、シミュレーション技術を活用して探っています。
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災害発生時などの非常時にどうしてデマが拡散されやすいか気になる人
SNSでの情報の広がり方を知りたい人
過去の反省を生かして未来に備える方法を知りたい人

非常時のSNSでは、時間の経過とともに正確な情報が届きにくくなる。
「事実派」のインフルエンサーが増えることで解消につながるかもしれない。

インターネットに自由に書き込みをし、共有できるFacebook(フェイスブック)やTwitter(ツイッター)に代表されるSNSは、いつでも、誰でも、どこにいても情報をやり取りできる便利なサービスです。一方でSNSにおいては、特に災害などの非常時に様々な情報が現れます。

 

このような非常時に現れる情報の中には、誤った情報や不確実な情報が数多く混在しています。そして、それらが社会の混乱を招き、私たちの生活に甚大な損害を与える可能性があります[1,2] 。

また、先の見通しが立たない不確実な状況において、人は冷静な判断ができず感情的になる傾向があります[3] 。東京電力福島第一原子力発電所の事故時に、Twitterでは不確かな情報や、感情的なコメントが飛び交ったことも一つの例です。

 

そこで、ここではまず、2011年3月から半年間の放射線に関連したTwitterへの書き込み(ツイート)を収集して分類した研究を紹介したいと思います[4] 。
この研究において、ツイートを細かく分類していくと、インフルエンサーと呼ばれる、影響力が大きい少数の発信者がいることがわかりました。
そして、これらインフルエンサーを大きく3つのグループ(科学的な事実に基づき発信するグループA、感情的な発言が多いグループB、新聞社などのマスメディアで構成されるグループC)に分け、その影響力を調べました(図1)。

 

その結果、事故直後はグループAとグループCの影響力が大きかったにもかかわらず、時間が経つごとにグループBの影響力が上回りました。
つまり、時間経過と共に科学的な事実に基づいた情報がSNS上で行き届きにくくなっていたことが明らかになりました。

 

では、どうすれば科学的に根拠のある情報をより多くの人に届けられたのでしょうか。

 

どうすればよかったか、を考えるための手段の一つとして、シミュレーションがあります。シミュレーションとは、現実社会では試すことができない問題の解決方法を探るための模擬実験です。実際の社会と似た状況を数式で生み出し、条件を変化させ、コンピュータ上で結果を推定できます。

 

ここでは次に、実際のTwitterデータからネットワークを構築し、シミュレーションを行うことで解決を試みた研究[5]を紹介します。

 

一般に、ネットワークはノード(点)とリンク(線)でできていますが、ここでのノードは、Twitter上にいる各アカウント(人)に対応します。リンクは、各アカウント間で行われる、リツイート、と呼ばれる情報の転送関係に対応します。

例えば、XさんがYさんのツイートをリツイートした場合、XさんとYさんの間をリンクでつなぎます。このようにしてネットワークを構築し、その上でシミュレーションを実施するのです。そのことによって、より現実に則したシミュレーションが行えるようになります。

シミュレーションにおいては、各ノードは「事実派」、「感情派」、「どちらにも属さない無所属」の3つのいずれかに属すると仮定しました。

 

次に、実際の意思決定を想定し、自分自身の意見と、リンクのある他のノードの意見を考慮して、自分の意見を更新するルールを導入しました。これらネットワークと更新ルールを組み合わせることで、実際のデータ上でシミュレーションができるようになります。

 

このような基礎となるシミュレーションに、さらに仮想的なシナリオを加えることで、現実の社会でどのような対策を講じれば良いのか議論することができます。
例えば、インフルエンサーが自分の所属派閥から、別の派閥へ転身した時の仮想シナリオを検証できます(図2)。
この仮想シナリオでは、インフルエンサーを感情派から事実派に転身させた場合、特定のインフルエンサーを選んだときに事実派の割合が大きく増えました(図3のインフルエンサーA)。一方で、ほとんど比率に影響を与えなかったインフルエンサーも存在しました。
さらに細かく分析していくと、この差は、単にリツイートされた回数(表1)に原因があるのではなく、各インフルエンサーが支持される時期が異なることが要因であると考えられました。

 

この仮想シミュレーション結果は、SNSネットワーク上で、リツイートされた回数だけでは測ることのできない、影響力があることを示しています。
もちろん、今回紹介した、仮想シナリオにおけるインフルエンサーの転身はやや現実的ではないかもしれません。しかし、単純なリツイート回数だけでは測れない、インフルエンサーの影響力を推定する上では有用です。

 

時間は戻すことがでないので、現実社会の中に介入して、試行錯誤して試すことは容易ではありません。
しかし、シミュレーションに仮想シナリオを組み合わせて検証することは、条件を変えながら、何度も繰り返し行うことが可能です。
非常時により多くの人々に正確な情報を届ける方法を探るため、シミュレーションは有用な手段の一つとなります。

 

 

 

【参考文献】

[1] 熊本日日新聞. (2022). 「ライオン逃げた」熊本地震のデマ 熊本市動植物園あの時 国内初の猛獣県外避難、余震に脅えた動物たち. [2022/08/16] https://kumanichi.com/articles/604283

[2] 総務省. (2020). 新型コロナウイルス感染症に関する情報流通調査.

[3] Stanovich, K. E., & West, R. F., (2000). Individual differences in reasoning: Implications for the rationality debate? Behavioral and Brain Sciences, 23(5), 645–665.

[4] Tsubokura, M., Onoue, Y., Torii, H. A., Suda, S., Mori, K., Nishikawa, Y., & Uno, K. (2018). Twitter use in scientific communication revealed by visualization of information spreading by influencers within half a year after the Fukushima Daiichi nuclear power plant accident. PLoS ONE, 13(9), e0203594.

[5] Sano, Y., Torii, H. A., Onoue, Y., & Uno, K. (2021). Simulation of Information Spreading on Twitter Concerning Radiation After the Fukushima Nuclear Power Plant Accident. Frontiers in Physics, 9, 640733.

 

 

 

図1. 放射線に関連したツイートの推移をグループ毎に分類した研究。Group A(青色)は事実派、Group B(橙色)は感情派、Group C(緑色)はマスメディア。(a) リツイート回数の週平均。(b) 各グループの占有率。(出典:Tsubokura et. al., PLoS ONE 13(9): e0203594 (2018))

 

図2. 仮想的なシナリオの概要。相反するインフルエンサーが転身したときの影響力を調べる。

 

図3. インフルエンサーが転身したときのシミュレーション結果。縦軸は転身したインフルエンサー(9名×2)。横軸は仮想シナリオシミュレーションの結果を元のシミュレーション結果で正規化した比率。青棒(黄棒)が1よりも大きいほど、事実派(感情派)の割合が元のシミュレーション結果よりもさらに増えた。

 

表1. 元データでインフルエンサーがリツイートされた回数。

 

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この記事を書いた人

佐野幸恵

筑波大学 システム情報系 准教授
奈良女子大学大学院で物理を専攻後、消防システムのエンジニアとして株式会社富士通ゼネラルに就職。その後、退職して東京工業大学の博士課程へ入学し学位を取得。博士(理学)。日本大学理工学部助手等を経て現職。
専門はネットワーク科学や社会経済物理で、特にSNSに見られる人間の集団行動に興味がある。
2011年の東日本大震災時の情報混乱をきっかけに、SNSにおける情報拡散について、大規模なデータ分析やシミュレーションを通した研究を進めている。
「科学技術への顕著な貢献2020(ナイスステップな研究者)」に選定された。

コメント

  • 2023.07.25

    なるほど!