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##DNA修復##エルカインド回復##放射線生物学##生命科学#二重鎖切断

「異分野異年齢で集うワクワクなんでサロン」シリーズその3: 2025年7月22日(火)報告

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ヒトの皮膚が傷ついても私たちは直ぐ直してしまうことに気付いているのに、生物学の教科書にはDNAの事がやっと記述されたのに、未だ生物が持つDNA修復についての記述がありません。新築の家でも住民がいなくなると直ぐボロ家になってしまいます。家はそこに住んで居た住民が、常に細かな修復をしていたから維持できていたです。生命が誕生してから、常にいろんな生命を傷つける物理的(紫外線、放射線など)・化学的(活性酸素や危険な化学物質)な、或いは生命同士の闘いで遺伝子を含め、傷を受けてきました。それらの損傷を修復する能力等を身につけた生命だけが、現在生き残っています。それらを概観して、電離放射線の損傷回復を初めて動物細胞レベルで発見されたエルカインド回復(1959年)の話とDNA修復の最近の知見を、お話しいただきました。

放射線で傷ついた遺伝子の修復:エルカインド回復他

講師:内海博司(公益財団法人体質研究会 主任研究員, 京都大学名誉教授)

概要

放射線の生物学的影響

内海先生は放射線の生物学的影響について講義を行い、DNAの構造、放射線による損傷、修復メカニズムについて説明。特に、細胞の生存率曲線、ヒット理論、DNAの二重鎖切断(DSB)、紫外線による損傷と修復について詳しく解説した。また、遺伝性疾患や突然変異、がん化のメカニズムにも触れ、バクテリアから人間まで生命の原理が共通していることを強調した。

細胞周期と放射線感受性

内海先生は細胞周期と放射線感受性の関係について説明。DNA修復メカニズムの詳細、特にDSBの相同組換え(HR: Homologous Recombination)修復と非相同末端結合修復(NHEJ: Non-Homologous End–joining)の役割、特にNHEH修復に関わるKu70やDNA-PKcsなどの遺伝子の重要性について説明した。また、放射線照射後の細胞生存率曲線の形状とその解釈について言及した。

▪️エルカインド回復とは

エルカインド (M.M.Elkind) 博士が、放射線の損傷は修復されないと考えられていたが1959年に、培養動物細胞を用いて、放射線を一度に照射する場合と、その放射線を二分割して、その照射間隔を開けると、細胞が生き返る現象を発見したことで、この現象をエルカインド回復とよばれていた。これは、当時の常識に対する最初の動物細胞を用いての反証データであった。しかし、当時は細胞死の原因は何か、その放射線損傷と細胞死の回復とはどのような関係なのか、放射線によってどのようなDNA損傷が起きているのか、そのDNA損傷を修復する機構なども不明であった。20世紀後半に入り、DNAの操作技術も発達し、ヒトの放射線感受性の遺伝子や、種々のDNAのDSBの修復に関係する遺伝子がクローニングされ、その遺伝子をノックアウトした高等動物細胞も取られるようになった。発見から42年後の2001年に、内海先生はニワトリB細胞由来DT40細胞の種々のDSB修復系の遺伝子をノックアウトした細胞を用いて、細胞死の原因は放射線で出来たDNAのDSBの未修復であること、エルカインド回復とは、このDSBを修復する2つの修復系(HRとNHEJ)の内、DNA合成期とG2期にのみ働いているHR修復系で、このDSBが修復され、その損傷を受けた細胞が生き返る現象であったことを、どのようにして証明したかを詳細に説明を行った。

DNA損傷の自然発生

内海先生は、DNA損傷、遺伝子修復、細胞分裂、および放射線の影響について詳細な説明を行った。ゲノムの構造、コード領域と非コード領域の違い、自然発生的なDNA損傷の頻度、そして修復メカニズムについて議論した。

ノックアウト技術の起源と進化

会議は、内海先生が使ったDT40細胞で、使われた遺伝子のノックアウト技術の歴史についての議論で始まり、権藤氏がその起源と重要性を説明した。また、ゲノム編集技術の進歩についても議論し、クリスパーキャスナインとエラープローンのマイクロホモロジーエンドジョインングの違いが強調された。ノックアウト技術のアイデアは簡単だが実現は困難であり、遺伝子をノックアウトしたマウスの生存率は遺伝子の重要性に依存すること等が議論された。

 

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この記事を書いた人

宇野賀津子

宇野賀津子(京大理学博士)
公益財団法人 ルイ・パストゥール医学研究センター
インターフェロン・生体防御研究室  室長

専門:(公財)ルイ・パストゥール医学研究センター就職以来ヒトの免疫機能と疾患との関連の研究を一貫して進めている。対象は、癌患者のみならず糖尿病、リウマチ、キャッスルマン病、MPO-ANCA腎炎、最近ではCOVID-19と幅広く、インターフェロン・サイトカインの視点から一貫して研究をすすめている。
更にエイズ教育や外国人医療体制の確立、女性研究者支援活動にも係わる。
2011年秋からは日本学術振興会や日赤の要請で、福島県各地で低線量放射線の生体影響克服と食の重要性について講演活動をおこなった。その後、「放射線の影響とクライシスコミュニケーション」に関する先導的開発委員会 第二分科会主査、日本赤十字社「原子力災害における赤十字活動のガイドライン」作成のための研究会委員、生活関連の放射線に関する疑問への助言作成委員会副委員長等を務める。2016年より、3.11以降のtwitterによる情報発信の解析を進め、更にクライシス時のSNSによる科学的情報発信体制の研究を進める。

著書 
「低線量放射線を超えて:福島・日本再生への提案」小学館新書
「放射線必須データ32」創元社 分担執筆
「理系の女の生き方ガイド」ブルーバックス
「サイトカインハンティング:先頭を駆け抜けた日本人研究者達」日本インターフェロン・サイトカイン学会 京大出版会 編著