佐々木先生は京都大学名誉教授の故菅原努先生、鹿児島大学名誉教授の秋葉先生、弘前大学の床次先生らが取り組んだ、中国の陽江地域(平均0.4、最大0.6μSv/h)とインドのケララ州カルナガパリ地域(平均0.4、最大4μSv/h)における高自然放射線地域の研究結果を紹介した。中国の研究では、1972年から1990年代に実施された調査により、バックグラウンド放射線に関連したがんリスクの増加は認められなかったが、ウィルスによる肝臓がんの発生頻度が高いことが確認された。インドの研究では、1998年から2017年までの大規模な調査が実施され、149,585人を対象とした疫学調査研究が行われた。
高自然放射線地域の健康影響評価研究
講師:佐々木 道也(一般財団法人電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 研究統括室 原子力(放射線安全)分野統括(兼)生物・環境化学研究部門)
概要
慢性被ばくによるがんリスク研究の報告
佐々木先生は、自然放射線による慢性的被ばくとがん罹患率の関係についての研究結果を報告。インドの研究(https://www.jstage.jst.go.jp/article/radiatenvironmed/10/2/10_74/_article)では、149,585人の対象者を含む大規模な調査が行われ、全体のがんや白血病の罹患リスクとの放射線線量の関連性は統計的に有意なものとして認められなかった。研究の結果は、急性被ばくと比較して慢性的被ばくによるがんリスクの影響が小さい可能性を示唆しているが、個人の居住履歴や医療費被ばくなどの限界があることが、論文で述べられている。
放射線被ばくの影響議論
初田氏が佐々木先生に3つの質問を提起し、子供の死亡率、放射線の内部被ばくの影響、そして日本の放射性作業従事者との比較について議論した。佐々木先生は公衆衛生状態の問題と内部被ばくの評価の困難さについて説明した。生物の進化により被ばくに対応する修復機能が発達したという意見も出されたが、権藤は集団遺伝学の観点から適応の可能性は1,2世代でも起こりうることを指摘した。
慢性被ばくとがん死亡率分析
権藤氏は、慢性被ばくとがん死亡率の関係について、中国のデータを分析し、被ばく地域でのがん死亡率が低い傾向があることを示唆する統計的証拠があると主張した。氏は独立性検定によりP値が約6.2%であることを指摘し、有意差がある可能性があると述べた。佐々木先生は、広島・長崎の急性被ばくと同様のリスクを慢性被ばくでは示さないという控えめな結論になっていることを説明した。
染色体異常検出
権藤と参加者は、放射線被ばくによる染色体異常の検出について議論した。権藤は、不安定な染色体異常が細胞分裂時に適切に分配されないことで発生し、強力な放射線が二重鎖切断を引き起こすと説明した。参加者は、染色体異常が放射線被ばくの証拠として存在するものの、がんへの直接的な影響は不明確であることを認識した。また、マウスの実験による放射線関連の発がんについて、さらなるメカニズム調査の必要性について認識した。
放射線生物学とがん発生
参加者は、放射線が細胞にダメージを与えてがん化するメカニズムについて議論した。権藤はがん遺伝子とがん抑制遺伝子の定義について補足し、個別の遺伝子変異が癌化に必要であることを強調した。参加者はがんの発生プロセスについて詳細な議論を行い、特に幹細胞の役割と突然変異の重要性について話し合った。
放射線研究とがんリスク調査
佐々木先生は2023年に発表されたINWORKS研究の結果(David B Richardson et al., https://www.bmj.com/content/382/bmj-2022-074520)について詳しく説明した。研究は原子力施設の作業者におけるがんリスクの増加傾向を調査し、特に最近雇用された人々でリスクが顕著に上昇していることを示した。佐々木はこの結果に対する批評についても言及し、特にWakeford先生による分析(Richard Wakeford 2025 J. Radiol. Prot. 45 011504)が参考になることを述べた。
コメント