災害が発生すると、定期検診の受診率が大きく低下。
自覚症状がある場合できるだけ早く医療機関に相談を。
読者のみなさん、はじめまして。福島県いわき市で乳がん診療に従事している常磐病院乳腺甲状腺外科の尾崎章彦と申します。
現在の日本において、乳がんは最も発症数の多い女性のがんです。1年間に乳がんを発症する女性は91605人(2017年)、実に、女性の約10人に1人が一生のうち乳がんを発症すると言われています。
あまり知られていませんが、2011年に発災した東日本大震災と福島第一原発事故は、現地の乳がん患者さんに深刻な影響を及ぼしました。私は、以前福島第一原発から北に10から40kmに位置する南相馬市において、震災が現地の乳がん診療に与えた影響について調査を行いました。すると、震災前に20%近くあった乳がん検診受診率が2011年には4%まで低下し、元の水準に戻るまで5年を要しました。
さらに、震災前に、症状自覚後1年以上医療機関受診が遅れるような乳がん患者さんの割合は4%に過ぎませんでしたが、震災後は19%に及んでおり、このような変化は震災後5年に渡り継続していました。無論、このように受診が遅れた患者においては進行した状態で指摘される乳がん患者が多くいました。
その背景は様々ですが、震災後の環境変化の中で知らず知らずのうちに自身の健康や医療機関受診の重要性が下がってしまった可能性があります。また、若年者が多く避難したことで、症状を自覚した時、また、検診の必要性を感じた時に、背中を押してくれるような家族や友人といった存在が減っていた可能性があります。
震災という特殊な文脈を抜きにしても、40歳以上の女性は最低2年に1度は検診に行っていただきたいです。検診を通じて早い段階で病気を発見することができれば、多くのケースにおいて、体に負担が少ない治療で病気の治癒を目指すことができます。
さらに、乳がんに関する症状を自覚した場合、できるだけ早く医療機関を受診していただきたいということです。なぜならば、一般に検診で指摘される乳がんよりも症状をきっかけとして見つかる乳がんの方がより進行していることが多いからです。乳がんの代表的な症状は胸のしこりや乳首からの赤色の分泌物などです。もちろんその全てが乳がんに伴うものというわけではありません。ただ、このような症状が現れた場合、医療機関を一度受診して、深刻な病気がないか是非ドクターと確認しましょう。
最後に、現在の新型コロナウイルス流行がこのような乳がんの診療に与える影響について考えてみます。私が最も心配しているのは受診控です。新型コロナウイルスへの感染を恐れるあまり、定期的な検診受診を先延ばしにしたり、症状を自覚しているにもかかわらず医療機関への受診を控えるということが現実に起きています。その全貌はいまだ不明ですが、受診控が長く続けば、より進行した状態で乳がんが見つかるなど、深刻な影響をもたらす可能性があります。
私は、「目に見えないものへの恐怖」という意味で、現在の新型コロナウイルスの流行と放射能には類似点があると考えています。不安な症状があればまずお電話でも構いませんので医療機関とコンタクトをとってみましょう。もちろん我々の医療機関では飛び入りの患者さんの受診も原則受け付けています。
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