社会の空気感は目に見えず、捉えどころのないもの。
しかしSNSなどへ投稿された言葉を注意深く観察することで、これまでになかった見方ができる。
2020年からの新型コロナウィルスの影響下では、予定されていた行事が次々と中止になっただけではなく、自主的に会食や飲み会をやめた人も多いのではないでしょうか。
当時の日本を覆ったそのような空気感は「自粛ムード」と言われていました。
日本だけではなく、例えばイギリスでは2023年5月のチャールズ国王の戴冠式でイギリス全体が「祝賀ムード」に包まれました。
このような社会の空気感は、肌感覚では分かっているものの、簡単に数値で表すことができる気温や湿度とは異なり、ちょっと捉えることは難しいように思われます。
しかし、最近になってそのような捉えどころのない社会の空気感を、なんとか測定しようという試みがあります [1-3]。
どうやって空気感を測定するのかというと、インターネットに残っている多くの人の声を使うのです。
より具体的には、ブログやSNSに書き込まれた、たくさんの言葉を拾い上げて行くのです。
例えば、雨が降る月曜の朝は、これから学校や仕事で「ダルい」と思わずつぶやく人も多いのではないでしょうか。
このような何気ない言葉を拾って集めることで、空気感を測定するのです。
もちろん、このようなインターネットの書き込みだけで、社会全体の空気感を言い表すことは不可能です。
そもそも、インターネットに接続していない高齢者や子供もいますし、何かを思っても、わざわざインターネットに書き込みしない人の方が多いでしょう。
一方で、日本でも多くの利用者がいるSNSから発せられる言葉のシグナルを注意深く聞くことで、断片的にでも得体の知れない空気感を読み解くことができれば、有意義だと思いませんか。
私たちは日本のSNSの中でも、利用者が4500万人いると言われているTwitter(ツイッター)と呼ばれるインターネットサービスに書き込まれた言葉を使って、放射線問題に対する空気感を測定しました。
Twitterは、利用登録した人がスマートホンやパソコンから自由に言葉を書き込むことができるサービスで、その手軽さから、アメリカを中心に世界中に利用者が数億人いると言われています。
私たちは、まず2011年から2017年の間にTwitterに投稿された、放射線問題に関連する書き込みを集めました。
そしてそれらの書き込みに頻繁に現れる、特徴的な言葉を数え上げることで、放射線問題に関する空気感を測定することにしました。
その結果、2011年の東日本大震災直後には高かった、ゴタゴタした感じを表す「混乱」の空気感や、不安で気が休まらない感じを表す「緊張」の空気感は、2年後の2013年頃には、ほぼ落ち着いていることが観測できました。
一方で、グッタリした感じを表す「疲れ」の空気感はそれよりさらに1年間長引いていたことが明らかになりました。
より詳細に読み解いていくと、この「疲れ」の空気感は、放射線問題に対して、ウンザリした人が多く、精神的な疲れが理由として挙げられました。
これは、新型コロナウィルス影響下の各種制限に起因する「自粛疲れ」とも共通した点があると考えられます。
このように、社会の空気感は目に見えず、捉えどころのないものです。
しかし多く人がインターネット上に接続している現在、SNSなどへの何気ない書き込みに残る言葉を注意深く観察することで、これまでになかった見方ができるようになっています。
参考文献
[1] Dodds, P. S., Harris, K. D., Kloumann, I. M., Bliss, C. A., & Danforth, C. M. (2011). Temporal patterns of happiness and information in a global social network: Hedonometrics and Twitter. PLoS ONE, 6(12), e26752. (英語のTwitterから社会の幸福感を計測した先駆的な研究)
[2] Sano, Y., Takayasu, H., Havlin, S., & Takayasu, M. (2019). Identifying long-term periodic cycles and memories of collective emotion in online social media. PLoS ONE, 14(3), e0213843. (日本語のブログから日本の空気感を計測した研究)
[3] 田村 光太郎 (2022). SNS情報から読み取る「日本の空気感指数」の紹介. 野村総合研究所 メディアフォーラム資料 [2022/04/08] https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2022/cc/mediaforum/forum331 (2023-02-01 参照/日本語の Twitterから日本の空気感を計測した研究)
【図】 放射線問題に関するツイートから抽出した6つの感情(空気感)に関する月次の推移。縦軸は2017年1月からの半年間の平均を1とした値(破線)を基準とした値に規格化している。
コメント