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#Mo99#Tc99m#コバルト60#医療用放射性物質#工業用放射性物質#放射性物質#日本アイソトープ協会

放射性物質(アイソトープ)の日本国内での利用状況について

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放射性物質は、工業や医療で幅広く利用され、人々に利益をもたらしています。ネガティブな側面だけでなく、その利用は今後拡大する見込みです。日本では、日本アイソトープ協会がその利用実態を統計で公表しており、特に工業用のコバルト60(Co-60) が99%以上を占め、医療品の滅菌や腫瘍治療などに使われています。放射性物質は用途に応じて様々な法律で規制されていますが、適切に管理・利用されています。
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多くの人は、普段は放射性物質とは関わらない生活をしていると思いますが、日本国内でも様々な目的で放射性物質は使われています。放射性物質というと、被ばく=危険というネガティブな側面が、まず思い浮かべられる傾向にありますが、工業利用・医療利用を通じて、人びとに利益をもたらすポジティブな側面があり、今後ますます利用の拡大が見込まれています。

日本アイソトープ協会がアイソトープ流通統計を毎年公表しており、放射性物質(Radioisotope (RI)、放射性同位元素)の利用実態を読み取ることができます。現時点での最新版(2024年版)から、いくつかデータを抜き出し、説明をしていきます。

放射性物質には法律上の分類がいくつかあり、主要なものとして、「放射性同位元素等の規制に関する法律」(通称、RI法)に基づく「放射性同位元素」としての線源(密封RIと非密封RI)があります。非破壊検査や分析等の工業分野や研究開発の分野で利用されています。核種ごとに規制対象となる放射能の下限数量(Bq値)と濃度(Bq/g値)が定められており、この数量と濃度が核種ごとに定められた値より双方とも上回るRIは、原子力規制員会の許可/届出、放射線管理域内で用いるなど持ち出しの制限や記帳義務、被ばく量の管理などの規制が設けられています。一方、数量(または濃度)が下限数量(と濃度)より下回るものは、規制の対象外となり、許可/届出等の手続き不要で、管理区域の外で使用することが可能です。また、ウラン、トリウムなどは放射性物質であるものの、(RI法に基づく法律用語での)放射性同位元素としてなく、「核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(通称、炉規法)により、「核燃料物質/核原料物質」として特別に規制されています。ただし、一定量以下の核原料物質(天然のウラン鉱石やトリウム鉱石など)は、炉規法の規制から除外されているため、下限数量以下のRIと同様に、許可/届出等がなくても所持、使用することができます。

放射性物質であっても、ヒトに投与する目的で製剤されたものは、「放射性医薬品」として別に分類されます。放射性医薬品は医薬品であるためRI法ではなく、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保に関する法律」(薬機法)によって規制されており、医薬品等の安全性と品質確保に関する「GMP基準」に合致した品質が求められています。さらに、ヒトに投与するときは、医療法に所管する法律が移ります(未承認の放射性医薬品や治験薬は、場合によってRI法または医療法により規制され、少しわかりにくい制度になっています)。

RIの利用に伴い発生する廃棄物には、RI法由来のものだけでなく、薬機法・医療法・臨床検査技師法由来のものがそれぞれ存在し、そのほとんどが日本アイソトープ協会により回収され、保管・廃棄されています。

利用実態を把握する観点からは、RI法に基づく密封と非密封、そして薬機法に基づく放射性医薬品の3つの区分をおさえておけば十分です。数量からすると、密封RI:非密封RI:放射性医薬品=117,462,058,540 MBq:459,952 MBq:429,635,619 MBqになります。簡単な比にすると、273:0.001:1くらいです。密封RIが最も大きいということができます。

その中身をみていきます。密封RIは次のような内訳になっています。日本で使われている密封RIの99%以上がCo−60(コバルト60)になります。これは、工業用や医療用の照射装置のためにCo-60が広く使われているためです。医療用品や動物用飼料の滅菌や、害虫の不妊化、あるいは脳腫瘍の照射装置などがよく知られています。

 

 

 

 

密封RIで、Co-60の次に多いのがIr-192(イリジウム192)になります。これも工業用と医療用どちらもあり、非破壊検査、がん治療のための密封小線源療法(RALS)などで利用されています。

 

非密封RIでは、大学や研究機関で様々な核種が使われています。H-3(トリチウム)やC-14(炭素14)は標識試薬として生物学の実験に多く利用されています。Mo-99/Tc-99m(モリブデン99/テクネチウム99m)やF-18(フッ素18)はイメージング検査に使われますが、ヒトへの投与ではない目的(動物実験等の研究)での使用は、ここに分類されます。Ac-225(アクチニウム225)は、がん治療のために最近注目されている核種です。

 

放射性医薬品は、薬剤として人体に投与する目的で精製されたものです。Mo-99/Tc-99mは、SPECTという方法で、140keVのガンマ線をとらえて、脳腫瘍などのイメージングをするために使われます。原料は中・高濃縮ウランで海外の原子炉で作られた原料を輸入し、国内で製剤されています。F-18は、国内の小型加速器で作られた原料を、体内の固形がんに集中するようにブドウ糖に似た化合物(FDG)に製剤し、511keVの陽電子の消滅ガンマ線をとらえてイメージングする方法に使われます。いずれも、体内の検査方法としては、CTやMRIなどと同様、ポピュラーな方法となっています。I-123、In-111、Rb-81/Kr-81mなども検査に使われています。その他にも、治療用の核種としてI-131、Lu-177、Ra-223などが挙がっており、がん治療の方法として現在目覚ましい発展を続けている分野になります。

 

 

 

 

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この記事を書いた人

一瀬昌嗣

合同会社一瀬研究所 代表社員
専門:原子核物理学、放射線測定。
高エネルギー重イオン衝突のシミュレーションによる研究を行い、北海道大学にて博士(理学)の学位を取得。
2007年から神戸市立工業高等専門学校の教員として物理系科目の教育や様々な校務に従事。
同校在職中に、東日本大震災が起き、それを契機に放射線に関連した関わりを広げるようになった。
2014年から原子力規制庁の職員に転職し、放射線に関する行政的な課題について、調査や委託の企画立案・運営などを行う。
さらに、2018年からミリオンテクノロジーズ・キャンベラ株式会社に転職し、
ゲルマニウム半導体検出器の点検や、測定、シミュレーション評価などの実務を行う。
2024年から独立して同社と契約関係になり、放射線測定・評価の実務を継続しつつ、新規の分野開拓を志向し、現在に至る。